みなさん、こんにちは。
ロンドン駐在員のがまくん2号です。
現在、ロンドンには『日常』があります。
しかし、わずか数年前のコロナ禍、ロンドンは幾度となく大きな苦境に直面した都市でした。
3度のロックダウン、全土で22万人を超える死者・・・当時の人々の大きな喪失、哀しみ、憤りを思うと、改めて日常の生活が戻ってきたことに感謝せずにはいられません。
そして、そんな人々の思いとコロナ犠牲者への哀悼の意を込めた追悼メモリアルが、ロンドン中心部にあります。
The National COVID Memorial Wallとは
『The National COVID Memorial Wall』とは、テムズ川の南岸、サウスバンクと言われるエリアに位置する約500mに渡る『壁』を指します。
ただし、これは単なる『壁』ではありません。
正確に言うと、当該『壁』自体は、元々テムズ川沿いの遊歩道に沿って在ったものですが、今やその壁面上には大小22万個以上(犠牲者数と同数)のハートのイラストが敷き詰められ、各々のハートにはコロナで亡くなった故人の名前と遺族のメッセージが添えられています。
この『壁』は、ビッグベン等のウェストミンスター宮殿(英国国会議事堂)からテムズ川を挟んで真向かいに位置し、まさに当時の政府の対応に係る教訓を風化させないように鎮座しているようです。
なお、これらのハートはボランティアによって日々書き足されており、またコロナで家族を失った遺族は誰でも故人の名前とメッセージを自由に刻むことが推奨されています。
遠隔地に住む方々に向けてボランティアによる代筆も行っているようですが、気持ちの整理という意味でも、直接訪れる遺族の方が多いようです。
アクセス:Waterloo駅から徒歩10分弱(Bakerloo line, Jubliee line, Northern line, Waterloo and City line、Overground各線)
設立経緯
『The National COVID Memorial Wall』は、パンデミック真っ只中の2021年、コロナ犠牲者の遺族支援団体(「Covid-19 Bereaved Families For Justice」)によって始められたイニシアチブです。
特筆すべきは、公的なサポートや許可は一切得ず、完全にボランティアの意思と作業のみで進められた事業であること。
英国のコロナ死者数が10万人を突破した際、当時のBoris Johnson首相も「事態が鎮静化した後のメモリアルの建設」について議会で発言していましたが、遺族の強い哀悼の気持ちと政治的意図に左右されたくないとの思いが、このようなメモリアルの形を早期に実現しました。
同年3月に30人で始まった作業は、10日間で1500人の市民ボランティアが集まるほどの世論の支持を獲得。また、本来、公共の建造物である「壁」に無許可でハートを描画する行為は、器物損壊罪に当たりますが、地元の警察を含め作業を取り締まりに来る公的機関はどこもなかったとのこと。
なお、ある程度作業が進捗した4月初めには、全ての国会議員がその視察に招待されました。その際、『壁』が位置するLambeth区選出の議員やKeir Starmer党首等の労働党の面々は早々に視察に訪れましたが、現与党である保守党議員については、最初の10日間誰一人として来なかったそう。
混乱と犠牲者拡大を背景に、当時の英国政府のコロナ対応が相当に批判されていたことが、その背景にあるようです。
しかし4月10日、英国国教会の大司教、ユダヤ教のラビ及びイスラム教のイマームが、共に『壁』を訪問し哀悼の意を捧げたことをきっかけに、保守党議員も徐々に訪問するようになり、4月末にはJohnson首相(当時)の視察も実現しました。
以来、『The National COVID Memorial Wall』は、事実上、公のコロナ犠牲者の追悼メモリアルとして認識され、ロンドンの新たな訪問スポットとなっています。
永久保存への動き
『The National COVID Memorial Wall』の取り扱いについては、当該『壁』が存在するLambeth区とSt Thomas’ Hospitalに法的権限があります。
現在、Lambeth区では、保護ガラスやラッカー塗布による永久保存の議論もなされているとのことです。将来的にはそのような措置が望ましいとされる反面、現在なお進行形で拡張が続いている本メモリアルの性格を損なうことから、今のところは現状のalive かつ growing な形が維持されるようです。
時が熟し、遺族団体の同意が得られるタイミングで、よりオフィシャルな形での保存が実現するかもしれません。
さいごに
今回は、ロンドンの新たな訪問スポットともいえる「The National COVID Memorial Wall」について、ご紹介しました。
コロナによる何百年に一度ともいわれるパンデミックは、全人類にとって辛く、苦しい経験だったと思います。しかし、それは同時に忘れてはいけない歴史であることも事実です。当時の教訓や失われた貴重な命を忘れないためにも、是非一度足を運んでみていただければ幸いです。